eDiscovery(電子情報開示)- ITの側面から語る

eDiscoveryとは?

    eDiscoveryは米国の裁判プロセスの重要な一部である「ディスカバリー」、日本語で「証拠開示」となりますが、訴訟当事者の申し立てに基づき、裁判所が相手方又は第三者に対し証拠となりうる情報の提出を求めるプロセスです。企業が絡む裁判ではこのような文書提出要求 が証拠開示の焦点となり、2006年4月に連邦民事訴訟法規則(Federal Rules of Civil Procedure: FRCP)が改正され、電子情報開示に関する規定が制定されました。
    対象となる電子情報には電子メール、オフィス文書、チャット、会計データ等を含む全ての電子書類となり、他にメタデータやバックアップデータとIT運用の領域となるデータも対象となります。

テキサス州はeDiscoveryを採択した最初の州

    テキサス州では近年のデジタル時代に早い段階で法制度を整理し、1999年にTexas Rule of Civil Procedure 196.4を制定。その後アイダホ州、ミシシッピ州でテキサス州と同様の法律が採択されました。州法レベルではバラつきがありますが、最近よく日系企業がターゲットとなっている「反トラスト法」は司法省相手、つまり連邦レベルとなるので、州法に係わらずコンプライアンスが必要と言えます。

心の準備は出来てますか?

「社長! 受付にFBIの方が来てますよ!」
    ある日突然FBIが令状を持って来るとか、あまり想像もしたく無い事です。カルテルの嫌疑でFBIの捜査が入ったり司法省から提訴される日系企業が増えています。特に2012年頃から日系の製造業(自動車部品、電子部品)、流通等の分野で40件以上の提訴事例が米司法省のWEBサイトに掲載されてます。企業へ課せられた罰金は合計で30億ドル以上と莫大と言えます。日本企業がダントツに多いのも事実です。更に民事裁判へ展開しているケースもあり、公表されていない経済的な損失は計り知れません。
「普通に駐在員の仕事をしていたのに…」
    ここ5年間で30人以上の日系企業の経営幹部に実刑判決により収監されています。たとえホワイトカラー犯罪者向けの刑務所としても、精神的なダメージや家族へ与える影響を考えると、とても厳しい制裁です。よくあるケースとして、捜査が始まった後に慌ててメールやデータの消し込みや改ざんをしてしまい、捜査の段階でComputer Forensic(コンピューターの科学捜査)の専門家による履歴の追跡やデータ復元により、意図的に証拠隠滅を図った事が判明し、反トラスト法違反に加えて捜査妨害や悪意のある共謀とみなされ、厳しい制裁や実刑判決となる事も背景にあります。

ではどうしたら良いのか

    経営者、幹部社員、IT管理者としてeDiscoveryのコンセプトを理解し、現在の社内システムがどの程度対応出来ているかを認識する事から始まります。以下は「してはいけない」リストです。
  1. 当然のことながら反トラスト法違反をしない、他社との情報交換、特に価格情報等は行わない。他のコンプライアンスも徹底。
  2. 訴状を受け取ったり、捜査されている認識が出来た後に、メールやデータの削除・改ざんを意図的に行わない。例えシステムを破壊してもメールの送信先から証拠提出されてしまう可能性を考えると断念する事が最善策。
  3. 普段から「こまめにメールの削除をする」「都合の悪い内容はその都度削除」を実行。サーバーやアプリケーションのログやメタデータやバックアップデータ復元等により簡単に追跡されてしまいます。

ITシステムへの対応は?

    最も大事な事として“訴訟リスクの認識”です。米国でビジネスする以上「事業会社」と定義される企業は、業界・業態問わず全てリスクがあると言っても過言ではありません。
    eDiscoveryコンプライアンスにはITシステムの事前対応が肝心と言えます。事後対応の場合、裁判所が指名する専門家によるデータの復元作業が伴うので莫大な費用が発生します。
    事前対応として「訴訟ホールド」に対応可能なITシステムが構築されている場合、eDiscoveryの対応費用を最小限に抑えられます。内部監査の信憑性も高まるので無罪の主張も説得力が高まります。更に証拠隠滅や改ざんの嫌疑で実刑判決となる事も避けられます。
    社内でも構築・運用可能ですが、理想は第3者に委託運用する事と言えます。他に基本的な事として情報セキュリティーや文書の保存規定に関する社内ポリシーの整備も重要と言えます。 
    弊社でお手伝いさせていただいた時の話になりますが、データを先方の指示通りに速やかに提出した時は「心象が良い」という言葉を相手の弁護士が漏らすのを耳にし、それ以上深くデータも調査されませんでした。




なぜ日系企業が狙われる?

    残念ながら反トラスト法違反とかで検挙される企業に日系企業が多い事実の背景として「ディープポケット理論」や見せしめ的に活況な業界を重点的に狙っているような気がします。有名な企業やブランド力のある企業、日本本社の資産価値が大きい会社は、裁判でもどうせ沢山お金あるからという感覚で高額な罰金を科せられている感じがします。90年初頭のIRSによる移転価格問題で米国内生産が出来ていない製造業が立て続けに訴訟された時と同様、反ダンピング法、反トラスト法等と、話題に事欠きません。
    日本では米国のように経営者や幹部社員の個人責任を追及される事が殆ど無く、詐欺や背任行為、過失のある事故等以外は謝罪して引責辞任で済まされる事が多いので、幹部社員や役員レベルでの個人責任に対する認識が薄いのも事実と言えます。米国では幹部社員や役員レベルへの個人責任が明確で、D&O(Director & Officers)保険等も整備されているくらいです。
    日本的なメンタリティーとして争い事や事件をを避け、罰金払って早く片付けて何とか裁判沙汰や事件から世間体を保とうと意識が強いところや、何とか証拠を隠して逃れようという意識やコンプライアンスや米国司法プロセスへ対する知識の欠如も否めない事実と言えます。

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